書籍名
ドアの向こうのカルト 9歳から35歳まで過ごしたエホバの証人の記録
著者名
佐藤 典雅
内容紹介
九歳の時に母親の入信をきっかけに家族全員がエホバの証人となり、25年間の教団生活の後に親族一同が教団を抜けるまでのドキュメンタリー手記。著者は子供の頃からロンドン、ロスアンジェルス、ニューヨーク、ハワイ、日本での生活経験を持つ。エリート銀行員の妻であった母親が「家族のために」と良かれと思い聖書の勉強をエホバの証人たちと始める。しかしやがて教団の厳しい規則が家族一同の生活を支配するようになる。元信者ならではの目線で書かれており、教団の実態、教団信者の内情がリアルに克明に描かれている。
著者は教団の方針により大学を断念し、十九才の時にニューヨークにある教団のブルックリン本部に入る。本部を出た後にグラフィックデザイナーとしてのキャリアを歩み始める。後にヤフーに転職するものの週三度の集会に時間通りに出席するのは大変困難であった。子供が二人いる状態にも関わらず、母親からは仕事をやめて新聞配達をしろと毎回説教をされるようになる。信者ではない人々はサタンの世の人と刷り込まれていために友達も教団の外につくることはなかった。教団からの布教活動の時間のノルマをこなすために、週末は一日中見知らぬ人の家のドアを叩いて周った。この本のタイトルはこの活動に由来している。しかしやがて教団の他宗教を強烈に裁き否定する教義に疑問を抱くようになる。神による平和と愛を述べ伝えながら、自分自身が宗教紛争のいったんを担っているのではないかというジレンマを感じるようになる。また、家族のためにと聖書を勉強した家庭が崩壊していくのを目の当たりにして、本当にこれが神の望む意志なのか?と考え始める。
後に東京ガールズコレクションで有名となるブランディング社で仕事をする事になる。女性市場を一世風靡したガールズウォーカー、ファッションウォーカー、キットソン、LAセレブなどのプロデュース業に携わるようになる。華やかな舞台での仕事とは裏腹に、著者自身の意志と教団の指針との間で大きな葛藤を抱えるようになる。教団が主張するキリストの自己犠牲精神と自分の自由意志を殺す自己否定はどこが違うのか? そんなある日、突然自ら宗教の洗脳から解かれる出来事が起きる。しかし自分が信条を翻すと脱藩者扱いになり、自分が知っている唯一の共同体から村八分になることは明白であった。長年の唯一の友や仲間からは「サタンに魂を売り渡した反逆者」というレッテルを貼られ連絡を絶たれることになる。また親族一同が教団の信者であったために親族からも大きな抵抗を受けることになる。親からは毎週「教団に通報して親子の縁を切る」と泣きながらヒステリー状態での電話がかかってくるようになる。そこで著者は意を決して親族一同を教団から解約する事を決意。
カルト教団の中での生活という重々しいテーマの中、著者は自分の境遇や環境を楽しく軽快に小説のように綴っていく。教団部外者の専門家や評論家には決して分からない信者の思考や心情を浮き彫りにしていく。なぜ信者は世の終わりであるハルマゲドンという突拍子もない教義を信じるに至るのか。また、平和主義と愛を唱える無害と思える宗教が家庭崩壊を引き起こす過程も語る。洗脳がいかに当人たちの自覚のないまま進むのか、どうやったら洗脳を解けるのかまでも分かりやすく説明。エホバの証人に限らず全ての宗教が抱える潜在的なカルト性を説く。さらに、普段はカルトとは無縁と思っている人たちが、いかに簡単にカルトに巻き込まれやすいか注意を促している。カルトと日常生活の距離は意外と近く、あなたの家のドア一枚で区切られているだけなのである。普段は自分とは無縁に思える宗教がいかに社会全体を動かしているかも分かりやすく解説。宗教を理解する上での貴重な一冊となっている。
著者に関して
熱心な母親を筆頭に父親、弟、妹全員がエホバの証人であった。父親はやがて長老となり、自身は弟とブルックリン本部での活動に携わる。妻の実家も信者であり、彼女の兄は海老名支部の幹部である。自身の弟夫婦、妹夫婦も全て熱心な信者で構成されていた。三十五歳の時に教団の教理と聖書そのものの矛盾に気がつき2006年の夏に脱退する事を決意。一年かけて妻と妻の両親、自身の両親と弟夫婦を解約させる。また仲のよかった友達とその家族の解約も手伝った後に正式に脱退届けを提出。その後、2008年の2月に「真理真のJW解約サイト」を閉鎖しており、のちに解約資料を本サイトで見ることが可能。著者は現時点では宗教に関しては全ての意味において中立の立場をとっている。自身の信条としては、神を信じるのに人が創り上げた教団は必要ないが、同時に必要な人にとっては必要であるという見解とのこと。
目次
■はじめに―三五年前の八ミリビデオ
■小学生時代―カルト生活の幕開け
ドアにやってきたエホバの証人
両親は絵に描いたような健全な夫婦であった
「お母様」は理想が高かった
楽しみにしていたハローウィーン
家庭聖書研究が子供たちにも始まる
楽園で永遠に生きられる!
神父さんの顔がサタンのような顔に
知らないうちに誕生日、クリスマスが無くなる。
愛に包まれた兄弟姉妹たち
懲らしめのムチは愛のムチ
世の終わり、ハルマゲドンがやってくる!!
会衆を僕する長老と奉仕の僕
エホバの証人は何の証人なのか?
立っている間に足が腐る恐怖
緊張のドアベル
母親が感動のバプテスマを受ける
■中学生時代―自己アイデンティティの上書
冷戦の足音
葬式とお墓参りと親族からの反対
メッカ巡礼のような地域大会
世の中はサタンによって支配されている
デートは不道徳の始まりである!
思春期の大混乱、オナニー問題
日本から来た熱血の開拓者姉妹たち
どのムチが一番効くか?
サタン、サタンを連呼する信者たち、母親との闘い
■高校時代―信者としての自覚の芽生え
平和なニューヨークに引っ越す
世の終わりの年代計算方法
一九一四年がエホバの証人の根拠の全て
クリスチャンとしての自覚が芽生える
ウォークマン事件
日本で初めてのクリスチャン生活
ママチャリを猛速で漕ぐ熱血兄弟
将来は新聞配達をしろと言い出す母親
日傘、帽子、カバン、地味なスカートの伝道者
羊と山羊を分ける業
いきなりのピンタ事件!
ファッション母とカメラマン・オヤジの家族
カラオケ禁止令?
■開拓時代―信者としてのアイデンティティ
自分の意志か?神の意志か?
ベルリンの壁崩壊!いよいよハルマゲドンか!?
日系のおじいちゃんおばあちゃんに囲まれて
私のバプテスマ、弟のバプテスマ、衝撃のバプテスマ
夕食はティファーニーで
証人の活動を指揮する、地域監督と巡回監督
ブルックリン本部から返事が来た
■本部時代―激動の活動時代
124コロンビア・ハイツ
製本工場に配属
ベテル奉仕者の一日
ニューヨーク日本語会衆
エホバの証人とセレブ
ダヴィディアンとオウムによるカルト問題爆発
エホバの証人に教祖はいるのか?
もともとは神秘主義者であった創始者
名物ツアーガイドになる
日本語会衆でトラブル炎上
審理委員会にかけられる
ニューヨークに別れを告げる
■結婚と仕事―芽生える疑問
ハワイで一休み
結婚、セックスの仕方が分からない
二五歳で手に職ナシ、学歴ナシ
海外に出たがる熱心な二世たち
一九九五年の教義変更ショック
芽生えてくる小さな疑問の塊
なぜか鬱病が多い日本からの旅行者
ゲイ・ミュージックで悩む
マルチの本社はユタ州?
貧乏生活に嫌気がさして
■権太坂時代―アイデンティティの闘い
日本での初めての仕事
一番新しくて一番古い組織?
お腹の中の息子からのメッセージ
エホバは本当に家庭を幸せにしてくれるのか?
狭い門と組織拡大の矛盾
協会への寄付に関して
血を流す輸血問題
ネットはサタンと背教者の巣窟?
またしても貧乏、ひっくり返る評価
ゲイで悩む兄弟
友人の排斥
拍車のかかるネガティブムード
生きている感じがしない
アイデンティティとの闘い
子供の自閉症が発覚
■ロス時代―脱宗教洗脳
マザーテレサは楽園に入れるのか?
楽園に入る意味が分からなくなる
陰謀説にはまる
アルコール、やまとなでしこ、アイデンティティ崩壊
プリンス・ネルソン兄弟
突然訪れた「マトリックス」現象
教団の調査に没頭する
決め手となった出版物のオカルトシンボル
初めて遭遇する霊能者
主観性と客観性と宗教
妻の洗脳が解ける
共産主義のソ連の真っ只中で?
■ミッション・インポシブル―親族洗脳解約
泣き叫ぶ親を解約すると決める
妻の実家をひっくり返す
ベテル長老の義理兄と正面から対決
父親は家族サービスだった?
母親への手紙で突破口を開く
一つづつ教義の洗脳の塊を砕いていく
ついに母親をひっくり返す
続く弟の脱退
妹の解約失敗
ジェームズ・ボンド作戦
聖書にメスを入れる
ネットでカリスマになった真理真
脱退届けで人生をリセット
■死と再生―人生バージョン2・0
人生の価値観、道徳、倫理の再構築
冒頭に戻って
再び生れた者となる
撒いたものは刈り取るという言葉の難しさ
現在の私の価値観
自分にしか出来ないこと